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Xを眺めていたら、思わず手が止まる投稿が流れてきました。

ブラウザの上に人体の3Dモデルが表示されていて、骨格や筋肉、内臓を切り替えながら、好きな角度から観察できる。指でぐりぐり回せる。

一見すると、高価な解剖学ソフトのデモ動画です。ところがこれ、GPT-6 Astraを使って作られたものでした。

ブラウザに表示された3D人体図のパーツを、はなげるげが引き出しながら日本語ラベルへ差し替えているボクセルアート

「これ、日本語でも触ってみたい」

元の投稿を見て、まず純粋に触ってみたいと思いました。

そして次に思ったのが、日本語で部位名を確認できたら、医療従事者や学生にとってもっと使いやすくなるんじゃないか、ということでした。

リポジトリを見にいくと、アプリのコードはMITライセンス、使っている解剖データはBodyParts3D 4.0でクレジット表示が条件のライセンス、と書かれていました。つまり、条件を守れば手を入れて公開してもいい。

なので、僕のほうで日本語化してみました。

human-atlas.pages.dev

先に言っておくと、僕がやったのはゼロから人体図を作ることではありません。元のアイデアと実装が公開されていたから、その続きを試せただけです。こんな面白い使い方を見せて、しかも誰でも試せる形で公開してくれた元投稿者には、素直に感謝しています。

何を日本語にしたのか

部位名だけではなく、画面まわりをまとめて日本語にしました。

左が英語版、右が日本語版の系統パネル。Systemsが系統、Skeletonが骨格、Musclesが筋のように、項目名と件数の表示がそのまま日本語になっている

左側の系統パネルなら、Systemsが「系統」、Skeletonが「骨格」、Musclesが「筋」、Sensory organsが「感覚器官」。下部の操作パネルも、Explode anatomyが「解剖モデルを分解」、Assembledが「組み立て」。画面の隅にある「ドラッグで回転・ピンチで拡大縮小・タップで詳細表示」まで日本語です。

英語で読みたい人のために、右上のENボタンで元の表記へ戻せるようにもしてあります。

日本語化したHuman Atlasの画面。左に系統パネル(骨格296、筋402、動脈639など)、中央に全身の3Dモデル、下部に解剖モデルを分解するスライダーが並んでいる

数字で見ると、収録されているのは2,234個のモデル化部位と15の系統。骨格が296、筋が402、動脈が639、静脈が404といった内訳です。これがブラウザの上で全部動きます。

Vercelではなく、Cloudflareに載せた

リポジトリのREADMEには「Vercelにインポートしてください」と書かれていて、Vercel用の設定ファイルも同梱されています。本家のデモもVercelです。

ただ、このアプリはビルドすると静的なファイル一式(distフォルダ)が出てくるタイプなので、静的ホスティングならどこでも置けます。READMEにも、他の静的ホストで配信してもよいと書いてありました。

なので僕はCloudflare Pagesに載せました。理由は単純で、このブログもCloudflareで動かしているからです。同じ場所にまとめておいたほうが、管理も課金も分かりやすい。

Vercelが悪いという話ではまったくなくて、こういうときに置き場所を選べるのは、ビルド結果が静的ファイルだからです。そこは元の作りが良かったところだと思います。

Astraが人体を「描いた」わけではない

この3D人体図を見ると、「AIがついに正確な解剖図まで生成できるようになったのか」と思いたくなります。

でも、実際の仕組みは少し違いました。

Astraが人間の身体を想像で描いたのではなく、すでに存在している人体の3Dデータを読み込んで、ブラウザ上で操作できる形に組み上げている。AIがやっているのは、絵を描くことではなく、既存のデータを扱いやすい形に変換して、動かす部分のほうです。

ここは大事なところだと思っていて、もしAIが人体を想像で描いていたら、見た目がそれっぽくても中身は信用できません。逆に、元データが研究機関の作った実物ベースのものなら、話はまったく変わってきます。

じゃあ、その元データは何なのか。

BodyParts3Dという解剖学データベースでした。

元の3Dモデルが日本発だと知った

BodyParts3Dについて調べて、そこでもう一度驚きました。

このデータを開発・公開したのは、日本の研究機関を中心とするチームだったんです。

世界で注目されている最新AIのデモ。その土台をたどった先に、日本で長年積み上げられてきた研究資産があった。「日本人が、こんなすごいものを作っていたのか」と知ったときは、Astraの性能に驚いたのとは別種の嬉しさがありました。

しかも調べていくと、BodyParts3Dは最初から解剖学の教材として生まれたわけではないらしい。

その始まりにあったのは、携帯電話などの電波が人体に与える影響を調べる研究と、実在する日本人男性を撮影した全身MRIデータでした。

  • なぜ電波研究用の人体モデルが、2,000以上の部位を持つ解剖学データベースになったのか
  • 誰が、どの資料を使って、どうやって作ったのか
  • そして、どこまで信頼していいのか

このあたりを調べていたら記事1本分をゆうに超えたので、第2回にまとめました。

この人体3Dモデル、誰が作ったの? たどっていったら日本の電波研究に行き着いた

過去の研究資産が、AIによってもう一度動き出す

今回の3D人体図でいちばん面白いのは、AIがゼロから医学知識を作ったことではありません。

専門家が長い時間をかけて作って、公開してきたデータをAIが読み解いて、いまの時代に使いやすい形へ変えたことのほうです。

これまでは、専門的な3Dデータが公開されていても、実際に扱える人はかなり限られていました。データ形式を理解して、3Dで描画するコードを書けて、はじめてスタートラインという世界です。それがAIによって、データと利用者のあいだにあった技術的な壁が急速に低くなっている。

研究者が残したデータを、教育者が教材にする。医療従事者が患者説明に使う。学生が自分で回しながら学ぶ。今回のものは、その可能性をとても分かりやすく見せてくれました。

AIは、専門家の積み重ねを消すものではないと思っています。今まで一部の人しか扱えなかった知識やデータを、より多くの人が使える形に変えていく。そういう方向に効いてくるほうが、たぶんずっと大きい。

触るときに知っておいてほしいこと

楽しいので気軽に触ってほしいのですが、性格だけは押さえておいたほうがいいと思います。

  • 教育・学習用の閲覧ツールであって、診断や手術の道具ではありません(元のリポジトリにも明記されています)
  • 中身は成人男性1体を基準にした標準解剖です。すべての人の身体と一致するものではありません
  • ブラウザで軽く動かすために、形状は簡略化されています
  • 3Dの表示にはそれなりの容量の読み込みが発生します。通信環境には少し余裕を持って

このあたりの「どこまで信頼していいのか」は、第2回でもう少し詳しく扱いました。

続きは第2回で

新しいAIのすごさだけの話ではなくて、長年積み上げられてきた知識が新しい技術と出会って、もう一度動き始める瞬間なんだと思います。

その土台がどうやって作られたのかは、第2回に詳しく書きました。全身MRIを2mm角に区切る話、医療スタッフが3年以上かけて手作業で組織を分類した話、そして「このデータはどこまで正しいのか」という話まで入っています。

第2回:この人体3Dモデル、誰が作ったの? たどっていったら日本の電波研究に行き着いた

関連リンク・参考資料


部位数・系統数・ライセンスの記載は、2026年9月6日時点の公式リポジトリとBodyParts3D公式情報を確認したものです。