目次
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第1回で、Xで見つけた3D人体図を日本語化しました。
そこから元データをたどって、日本の研究に行き着き、海を渡ったZ-Anatomyを知った。
で、その間もアプリはずっといじっていました。
久しぶりに開発の記録を見返したら、自分でも「こんなに変わってたのか」となったので、ここまでの進捗をまとめておきます。
まず、名前が変わりました
最初は元のプロジェクト名のまま「Human Atlas」の日本語版として公開していました。
でも、機能を足していくうちに、もう「日本語化しただけ」とは言えなくなってきた。なので、名前をJINTAI 3Dに変えて、URLも移しました。
旧URLのhuman-atlas.pages.devから開いても、自動で新しいURLに転送されます。
モデルが2つになった
いちばん大きい変更はこれです。
第3回で書いたZ-Anatomyのモデルを追加しました。骨・筋・結合組織に、腕と脚の末梢神経178パーツを加えた計1,138パーツです。
もともとのBodyParts3Dは、全身と臓器を広く見るのに向いている。Z-Anatomyは、骨と筋と神経の関係を見るのに向いている。
なので、どちらかに寄せるのではなく、開いたときに選べるようにしました。オープニング画面で左に「全身・臓器」、右に「骨・筋・末梢神経」が並んでいて、実際の3Dデータから作ったプレビュー画像を見て選べます。
ライセンスも2つのモデルで違います(BodyParts3DはCC BY 4.0、Z-AnatomyはCC BY-SA 4.0)。アプリの中に、収録範囲・用途・ライセンスの比較も入れてあります。
触り心地を、かなり直した
地味ですが、数としていちばん多いのはここです。
- パーツをタップすると、いきなり解説が開いてモデルが隠れていた → 「解説」「非表示」「選択解除」のボタンだけ出すように変更
- 選んだパーツが目立たなかった → 色に合わせて青やローズで強調し、ゆっくり明滅(端末の「動きを減らす」設定では止まる)
- 選んだパーツだけ拡大して回したい → 「フォーカス」を追加。滑らかにズームして、戻るときも滑らかに引く
- 消したパーツを戻したい → 「元に戻す」と「すべて戻す」
- 複数のパーツをまとめて見たい → タップで複数選択
- 足の裏から見上げたい → 床と台座を消して、下からも回り込めるように
- 肩・腰・膝・足部へワンタップで視点移動
僕は足の分野の仕事をしているので、足底側から見られないのは正直かなり不満でした。床を消しただけですが、個人的には一番うれしい変更です。
途中で、左右反転されたパーツの面の向きが食い違っていて、左足底腱膜などが変な陰影で表示される問題も見つかりました。547パーツを直しています。
遊べるようにしてみた:解剖学チャレンジ
辞書として眺めるだけでなく、覚えるほうにも使えないかと思って、クイズを作りました。
- タッチチャレンジ:表層の筋肉の名前が出るので、3Dモデルの上でタッチして答える。5問のタイムを競う
- この部位なに?:光った筋肉の名前を答える
- 形で当てよう:筋肉の単体の形だけを見て答える
3・2・1・GOで始まって、正解すると大きく「○」が出ます。結果はシェアもできます。
作ってみて思ったのは、「名前を知っている」と「3Dの上で指させる」はまったく別の能力だということ。自分でやっても意外と間違えます。
動かしてみた:関節の動き(テスト機能)
これはまだ「テスト機能」と画面にはっきり書いてある段階です。
肘・手首・膝・足首・股関節・肩・首の基本的な動きを、骨のモデルで再生できるようにしました。
ただ、ここは作りながらかなり悩みました。骨を単純に1本の軸で回すと、骨同士が食い込むんです。実際の関節は、転がりながら滑るように動いているので。
なので、肘と膝では「転がり+滑り」を仮の円弧で近似するモデルを試しています。膝については、OpenSim JAMという研究用モデル(Lenhart 2015)の公開されている計算結果を使って、右膝の受動屈曲を約0〜90°で再生するモードも入れました。
とはいえ、どれも「実際の関節運動を正確に再現したもの」ではありません。アプリの中でもそう書いていますし、ここはこれからもそう書き続けるつもりです。
そして今、いちばん時間を使っていること
ここまで読むと、見た目や機能をどんどん足しているように見えると思います。
でも実は、この数日いちばん時間を使っているのは、画面には出ない作業です。
表示している名前と解説が、本当に正しいかの調査。
JINTAI 3Dには、部位ごとに一般向け・臨床向けの解説があります。これを一つずつ、出典を実際に開いて確認し直しています。調査の単位でいうと約3,900タスク。神経・筋・結合組織・骨格・臓器と、既存の解説の見直しまで、系統ごとに回しています。
体制はこうです。
| 役割 | 担当 |
|---|---|
| 全体計画・独立レビュー | Codex |
| 作業の設計・指示・受け入れ判定 | Claude |
| 調査・実装 | Cursor |
| 公開前の最終確認 | 僕(必要なら専門家) |
調べる役と、チェックする役を別のAIにしているのがポイントです。自分で書いたものを自分で合格にしない。
調べたら、いろいろ出てきた
やってみると、想像以上に見つかりました。
- 骨格として表示されるパーツに、前脛骨筋などの筋肉が混ざっていた(これは修正済み)
- 心臓の弁の要素に、別の弁の尖が混ざっている
- 「脳室」が心臓の系統に分類されている。英語のventricleが心室と脳室の両方を指すので、機械的に取り違えたと考えられます
- 解説の出典として、解剖とは関係ない論文が紐づいていたケースが累計29件
元のデータを作った人たちの仕事にケチをつけたいわけではありません。第3回で書いたとおり、ここまで公開してくれたからこそ触れているわけで。ただ、自分のアプリで表示する以上、確認して直すのは僕の仕事です。
AIのチェックも、そのままは信じない
もうひとつ面白かったのが、チェックする側でも問題が出ること。
骨格の調査では、レビューに回した分のうち約4割に修正が必要と判定されて、いったん新しい投入を止めました。調べる側の指示書を直してから再開しています。
さらに、監督役のAIが「書き込み途中のファイル」を数えてしまい、合格数を実際より多く報告していたこともありました。これも見つけて訂正し、ファイルが書き終わったのを確かめてから数える仕組みにしています。
AIに任せれば速い。でも、AIが「終わりました」と言ったことと、本当に終わっていることは別です。その間を埋める仕組みを作るのが、今の僕のいちばんの仕事になっています。
これから
計画としては、3つの段階で考えています。
- 解剖学の辞書:調べたい構造を探して、位置関係と基本情報を根拠つきで確認できる。ここに経絡・経穴の3Dレイヤーも重ねる予定
- 解剖学の学習:クイズや関節の動きを、理解と定着につなげる
- 医療以外への展開:トレーニーやヨガなど、自分の体の動きを知りたい人へ
いまはまだ1の途中です。調査結果は、独立レビューを通って、僕が中身を確認したものから順にアプリへ反映していきます。
見た目の派手なアップデートはしばらく少なくなるかもしれません。でも、「そこに書いてあることを信じていい」状態に近づけるのが、今いちばんやりたいことです。
使うときの注意
JINTAI 3Dは学習用のビューアで、診断や手術に使うためのものではありません。名称の一部は英語のまま残っていて、解剖学的な正確さについて専門家のレビューはまだ完了していません。関節の動きはテスト機能で、実際の関節運動を正確に再現するものではありません。
この連載
- 第1回:GPT-6 Astraで作られた3D人体図を、日本語化してみた
- 第2回:この人体3Dモデル、誰が作ったの? たどっていったら日本の電波研究に行き着いた
- 第3回:日本で生まれた人体3Dモデルは、海を渡って「Z-Anatomy」になった
- 第4回:この記事
記載の件数・機能は、2026年9月10日時点の開発記録とJINTAI 3D内の更新履歴にもとづきます。関節の動きで使用した公開計算結果は、OpenSim JAMの右膝受動屈曲の例を参照しています。