目次
AIで教材・講座・アプリをつくり、収益化したい医療従事者へ。
「あの分厚い教科書をAIに読ませて、わかりやすい教材にしたら売れるのでは?」
解説動画にする。理解度テストをつくる。質問に答えてくれるチャットにする。
医療の知識とAIを組み合わせて、もっと学びやすいものをつくりたい。そのアイデア自体は、とてもいいと思います。
でも、販売ボタンをつくる前に、一度立ち止まってほしいことがあります。
その教科書を、そう使ってよいのでしょうか。
![]()
「本は買いました」「出典も載せます」「文章はAIが書き直しています」。それだけで著作権の問題が解決するわけではありません。AIへの入力と、できあがったコンテンツの公開・販売には、それぞれ確認が必要です。
この記事は「AIで稼ぐな」という話ではありません。
せっかくのアイデアを、権利侵害で台無しにしないための話です。そして、僕たちが学んできた本をつくった人たちに、きちんと敬意を払おう、という話です。
この記事は日本法を前提とする一般的な解説です。2026年9月6日時点で確認できた法令・公的資料等をもとにしています。個別のサービスの適法性を保証するものではありません。実際の企画は、権利者や著作権に詳しい弁護士へ確認してください。
結論:販売はアリ。ただし「本を買ったから自由に使える」ではない
AIを使ってつくった教材を販売することが、一律に禁止されているわけではありません。
自分が権利を持つ原稿を使う。必要な利用許諾を得る。保護対象ではない事実をもとに独自の説明をつくる。法律上認められる引用を行う。そうした方法で商品をつくる道はあります。
ここで区別したいのが、次の二つです。
- 教科書から知識を学び、自分の教材をつくること
- 教科書の文章・図・独自の説明を加工して、別の商品にすること
骨の名称や解剖学上の事実は、その教科書だけの所有物ではありません。一方、それを説明する創作的な文章や図、独自の例えなどは、著作権の保護対象になり得ます。素材の選び方や並べ方に創作性があれば、その編集にも保護が及びます。
もちろん、一般的な説明の順番まで、特定の著者が独占できるわけではありません。大切なのは、医学的な事実と、その本が生み出した表現を混同しないことです。
なお、著作権は登録しないと発生しないものではありません。著作物を創作した時点で生じます。「転載禁止」と大きく書いていない本も、それだけで自由に使えるわけではありません。
「AIに読ませる」と「販売する」は、別々に確認する
AIを使った教材づくりは、ひとまとめにせず、工程を分けて考えると整理できます。
このほか、著作者名の表示や元の文章・図の改変には、氏名表示権(19条)と同一性保持権(20条)も関係します。
表で見る
| 工程 | 主に確認する権利 | こんな場面 |
|---|---|---|
| 入力・保存する | 複製権:21条 | 教科書をスキャンし、参照用データとして保存する |
| 加工・生成する | 翻案権等:27条、原著作者の権利:28条 | 元の創作的表現を残したまま、別の文章・動画へ作り替える |
| 公開・販売する | 公衆送信権等:23条 | 教材や回答を、ウェブや有料会員サービスで配信する |
条文まで並べると、こうなります。
| 工程 | 主に確認する権利・条文 | 例えば、こんな場面 |
|---|---|---|
| 入力・保存する | 複製権:21条 | 教科書をスキャンし、PDFや参照用データとして保存する |
| 加工・生成する | 翻訳権・翻案権等:27条、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利:28条 | 元の創作的表現を残したまま、別の文章・動画・図解へ作り替える |
| 公開・配信する | 公衆送信権等:23条 | 教材や回答をウェブサイト、有料会員サービス等で配信する |
| 著者名・表現を扱う | 氏名表示権:19条、同一性保持権:20条 | 著作者名の表示や、元の文章・図の改変を行う |
これらの権利が関係する場合、許諾や法律上の例外があるかを確認します。「有料会員しか見られないから自由」ということにもなりません。
完成品が独自の文章になっていても、入力・保存の段階が問題になることはあります。逆に、入力が適法でも、生成物をそのまま売ってよいとは限りません。
ここでよく聞く言い分を、先にまとめておきます。
| よく聞く言い分 | 実際のところ |
|---|---|
| 本は買ったから自由に使える | 本の所有と著作権は別。複製・翻案・公衆送信はそれぞれ確認が必要 |
| 出典を書けばOK | 出典は許可証ではない。引用は32条の条件を満たす必要がある |
| 教育目的だから | 35条は営利目的で設置されたものを除く教育機関の授業が対象。個人が売る講座は別 |
| AIが言い換えたから | 元の創作的表現が残っていれば、複製・翻案の問題は残る |
| 有料会員限定だから | 限定配信でも公衆送信に当たり得る |
| AIサービスが商用利用可だから | それはサービスの規約の話。入力する本の権利とは別 |
以下、ひとつずつ見ていきます。
「日本ではAI学習が自由」と聞いたけれど?
ここで関係するのが、著作権法30条の4です。
この規定は、情報解析など、著作物に表現された思想・感情の「享受」を目的としない一定の利用について、許諾なしでの利用を認めています。ただし、必要な範囲に限られ、権利者の利益を不当に害する場合などには適用されません。
難しい言葉ですが、「AIに使う」というだけで、何でも許される規定ではないと覚えておくとよいと思います。
例えば、資料を検索して回答する仕組みは「RAG」と呼ばれます。文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」では、そのための資料の複製についても、元の創作的表現を出力する目的がない場合と、出力する目的がある場合とを区別しています。後者には30条の4は適用されないと整理されています。
一方で、商用だから一律に適用されない、という規定でもありません。営利か非営利かだけでなく、何を目的に、どのような利用をするのかが重要です。
30条の4が使えない場合でも、引用や、検索・情報解析に付随する軽微な利用を扱う47条の5などを検討できる場合があります。ただし、「回答を短くすればOK」という意味ではありません。
また、AIサービスに「商用利用可能」と書かれていても、それは入力する教科書の利用許諾とは別です。資料側の権利とサービス側の規約を、両方確認する必要があります。
「出典を書けばOK」は、いちばん気をつけたい誤解
出典を書くことは大切です。
でも、出典は許可証ではありません。
著作権法32条の「引用」として文章や図などを利用するなら、公表済みの著作物について、公正な慣行と引用目的上の正当な範囲という条件を満たす必要があります。文化庁は、その判断のポイントとして、引用の必要性、引用部分の明確化、自分の解説と引用部分の主従関係などを挙げています。出所の明示には48条も関係します。
実際の制作では、少なくとも次を確認したいところです。
| 確認すること | 見るところ |
|---|---|
| 必要性 | なぜ引用するのか。自分の解説や検討のために必要か |
| 区別 | 引用部分と自分の文章が、読んで区別できるか |
| 主従 | 引用が商品の中心になっていないか。目的に照らして必要な範囲か |
| 出所 | 著者・書名・版・ページなどをたどれるか |
引用の条件を満たせば、有料コンテンツでも利用は可能です。反対に、無料公開でも、条件を満たさない利用が許されるわけではありません。
例えば、教科書の図について批評・検討するために必要な範囲で示すことと、「便利な図だから教材のメインに使うこと」は、同じではありません。
また、巻末に参考文献を並べるだけでは、どの引用がどの出典に対応するかがわからず、十分な出所表示にならない場合もあります。
表示は、例えば次のようにします。
引用:著者名『書名』第○版、出版社、発行年、p.○、図○。
事実を確認し、自分の言葉で独自に説明した場合の「参考文献」と、他人の表現を使う「引用」は、分けて扱いましょう。
参考文献を示すことが著作権法上いつでも義務になるわけではありません。それでも医療教育の教材なら、僕は、説明の根拠を追えるようにしておくべきだと思います。なお、利用許諾やライセンスで表示が求められる場合は、その条件にも従う必要があります。
「教育目的だから」「AIが言い換えたから」も、免罪符にはならない
医療従事者向けの教材なら、当然、教育を目的にしています。
でも、教育目的と、法律上の「教育機関の授業で認められる利用」は同じではありません。
著作権法35条は、営利目的で設置されたものを除く学校等の教育機関で、授業の過程に必要な範囲の利用などを対象にしています。個人が販売するオンライン講座や教材に、「教育用だから」という理由だけで適用できるわけではありません。
同様に、30条の「私的使用のための複製」は、自分や家庭内などの限られた範囲で使うための規定です。販売目的の教材づくりを、そのまま私的使用として扱うことはできません。
そして、AIに言い換えさせても、元の創作的な表現が残っていれば、複製・翻案などの問題は残ります。要約や動画化も、形式を変えたという理由だけで適法になるわけではありません。
例えば、一冊の各章を順番に言い換えて売る、図をトレースして色だけ変える、本文を次々に取り出せる有料チャットを公開する。こうした設計は、原資料の表現をどこまで利用しているのか、特に慎重に確認したいところです。
「何冊混ぜたか」「何%書き換えたか」ではなく、何を利用しているのかを見ます。
販売前に確認したいフロー
法律と文化庁の資料を踏まえて、実務用の確認フローに整理しました。「最後まで進めば適法」という自動判定ではありません。不明点があったときに、どこで止まり、何を確認するかを決めるためのものです。
不明点があったときに、どこで止まり、何を確認するかを決めるための図です。判断が難しいところは、権利者か著作権に詳しい弁護士へ確認してください。
表で見る
| 手順 | 確認すること | いいえ・不明のとき |
|---|---|---|
| ① 入力・保存 | 自分に必要な権利がある/許諾やライセンスがある/保護対象ではない/法律上の例外の条件を満たす | 入力を保留して、許諾の相談・資料の変更・専門家への確認へ |
| ② 生成物 | 残っていなければ④へ。残っている・判断が難しいなら③へ | — |
| ③ 公開・販売 | 許諾の範囲内か、引用など法律上の条件を満たすか | 販売を保留して、許諾の相談・制作し直し・専門家への確認へ |
| ④ 最終確認 | 出典、AIサービスの規約、医療情報の正確性、販売時の表示 | — |
ここまで通ったら販売を検討し、許諾内容、出典、確認日、修正履歴を保存しておきます。
ここでいう「自作の資料」にも注意が必要です。自分で書いた文章でも、出版社や学会へ権利を譲渡していたり、他人の図が含まれていたりすれば、自由に再利用できるとは限りません。
また、チャット型サービスなら、一つの回答だけでなく、繰り返し質問したときに原文がどれだけ出るかも確認対象にしたいところです。
許諾を相談する際は、単に「参考に使っていいですか」では伝わりません。対象書籍と利用箇所、AIへの入力・保存方法、加工内容、出力例、販売形態、利用期間を示す形がよいと思います。
本文と図・写真では権利者が異なる場合もあります。出版社などの窓口を通じて、誰から、どの利用について許諾を得る必要があるかを確認しましょう。
医療系のサービスは、著作権だけ確認して終わりではない
ここは、サービスの中身によって追加される確認です。すべての教材に、すべての規制が同じようにかかるわけではありません。
| サービスがこうなら | 追加で確認する法律 | 具体的に見るところ |
|---|---|---|
| 患者情報・症例を扱う | 個人情報保護法 | 利用目的、同意の要否、第三者提供。名前を消しても他の情報と照合して識別できれば個人情報に当たる場合がある |
| 患者の状態を入れて診断・治療を支援する | 薬機法など | 目的やリスクによってはプログラム医療機器に該当する可能性。名前ではなく実際の機能と使われ方で判断する |
| ネットで販売する | 特定商取引法 | 販売者情報・価格・提供条件の表示、申込みの最終確認画面 |
| 効果や性能を宣伝する | 景品表示法 | 実際より著しく優れていると見せていないか |
患者情報については、教材づくりの段階ではまず架空症例か、適切な手続で利用できる資料を使う設計を勧めます。「AIで作成」「医療従事者が制作」と書いても、これらの義務がなくなるわけではありません。
そして、法的な確認とは別に、医療情報そのものの点検も必要だと思います。使用した版、情報の更新時期、根拠と説明の対応、AIによる誤りや条件の抜け落ちを、人が確認する工程を入れたいところです。
「知らなかった」で、販売を続けられるとは限らない
著作権侵害があった場合、権利者は侵害行為の停止などを求められます。差止請求には著作権法112条、損害賠償には民法709条などが関係します。
差止めは、侵害した側の故意・過失を問わず問題になります。損害賠償は故意・過失などの要件があり、刑事罰については著作権法119条等と故意などの要件が別に問題になります。「知らずに使ったら直ちに犯罪」と一括りにはできませんが、「知らなかったから何も起きない」でもありません。
僕が怖いと思うのは、罰則の大きさだけではありません。
販売を始めて、利用者が増えてから止めることになったらどうなるか。購入者への説明や、教材の作り直しが必要になるかもしれない。自分の名前で届けたサービスへの信用も揺らぐかもしれない。
だから、確認は売れてからではなく、つくり始める前にしておきたいのです。
著者を飛び越えるのではなく、一緒につくる道もある
「教科書を使いたい。でも権利の確認が難しい」
そのときの選択肢は、無断で進めるか、諦めるかの二つだけではありません。
医学系の出版社には、転載・引用の可否や許諾申請の窓口を案内しているところがあります。業界団体である日本医書出版協会も、転載と引用の考え方や許諾の相談先を公開しています。AI利用について個別に見解や有償のライセンスを用意している出版社もあるので、使いたい本の版元に直接確認するのが早いです。
もちろん、出版社の見解がそのまま法律の最終判断になるわけではありませんし、どの企画にも許諾が出るという意味でもありません。
それでも、知識を蓄積してきた側と、新しい学習体験をつくる側が、協力する道はある。
僕なら、「この本をAIで別の商品にします」よりも、「この本の価値を、こういう学習体験で届けたい。どんな条件なら一緒に実現できますか」と相談したいです。
権利の確認は、創作を止める作業ではなく、長く続けられる形にする作業なのだと思います。
作者に礼儀を。知識をつくってきた人に、敬意を
わかりやすい説明、丁寧な図、迷わず読める構成。
AIに渡すときは、まとめて「ソース」と呼んでしまいがちです。でも、そこには、書いた人、描いた人、確かめた人の仕事があります。
法律が保護するのは、苦労や時間そのものではなく、創作的な表現です。それでも、その表現の向こうにある仕事を、僕たちは忘れないでいたいと思います。
知識を学ぶことや、適法な引用まで遠慮する必要はありません。権利を尊重することと、知識の共有を止めることは、同じではありません。
ただ、自分がAIで素早く形にできたからといって、その土台まで自分がつくったことにはならない。
何を誰から学び、どこに自分の工夫を加えたのか。そこを説明できる商品をつくりたい。
「その教材、著者に見せられますか?」という問いは、法律上の判定基準ではありません。
でも、自分がどんなつくり手でありたいかを考える問いにはなると思います。
AIには、作業を速くしてもらう。著者には敬意を払い、必要な許諾を得て、合意した対価を払う。その上で、自分の専門性とアイデアで、新しい価値を足す。
マネタイズを考えるなら、売り方と同じくらい、つくり方を大切にしたいです。
今まで何年、何十年とかけて積み上げられてきた書籍や教材は、単なる「AIに食わせるデータ」ではありません。その向こうには、著者がいて、編集者がいて、図を描いた人がいて、研究を積み重ねてきた人たちがいます。
法律を守るのはもちろんですが、それ以前に、作者に礼儀を。制作物に敬意を。
そのうえでAIを使って、新しい価値を足していけばいい。僕は、そういうAI活用が増えてほしいと思っています。
最後に、もう一度チェック
ここまでの内容を、確認用に並べておきます。押した状態はこの端末にだけ残るので、作りながら使ってください。
最後に、もう一度チェック
販売ボタンを作る前に、ここだけ確認してください。1つでも押せない項目があれば、そこが相談どころです。
0 / 12 確認済み
AIに入れる前
生成物ができたあと
売る前
参考資料・出典
法令・公的解説・権利者側の案内を分けて挙げています。出版社・業界団体の説明は、その立場からの見解・手続案内であり、それ自体が裁判所の判断ではありません。確認日はすべて2026年9月6日です。
- 文化庁「AIと著作権について」(考え方・チェックリスト・関連資料のまとめページ)
- 文化庁「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日。生成AIへの入力、30条の4、AI生成物と著作権侵害、RAGの整理)
- e-Gov法令検索「著作権法」(この記事で触れた主な条文:19条・20条・21条・23条・27条・28条・30条・30条の4・32条・35条・47条の5・48条・112条・119条)
- 文化庁「著作権テキスト」(引用の条件、出所の明示などの解説)
- 日本医書出版協会「著作物の転載・引用について」(医学書・医学雑誌の転載と引用、許諾の相談先)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(PDF)
この記事は特定の企画についての法的助言ではありません。個別の販売企画では、利用予定の書籍、入力・保存の仕組み、生成物のサンプルをそろえ、権利者や著作権に詳しい弁護士へ確認してください。文化庁の「考え方」も、個別事件の司法判断に代わるものではありません。